オオカミ専務との秘めごと
「神崎さん、ちょっといいかな」
「あ、はい。なんでしょうか」
楢崎さんに呼ばれて主任デスクまでいくと、午前中に渡したグラフデータの改善点を指摘された。
パソコン画面を指さしながら、より見やすく分かりやすくするために次回からはこうしてほしいと、丁寧に説明してくれる。
メモをお借りして要点を書き留め、言われていることを頭に叩き込む。
「じゃ、次回から頼むな」
「はい。お任せください」
などと言ったものの、次回は三ヶ月先。
しっかり覚えておくためにお仕事ノートに書き込んでいると、佐奈が私を呼んだ。
「ね、お願いがあるんだけど、今忙しい?」
仕事中に佐奈がお願いをしてくるなんて、何かよほど困っていることがあるようだ。
今なら時間があると伝えると、表情がぱーっと明るくなった。
「それならさ、今すぐ塩ちゃんのところに行って、郵便物を受け取ってきてほしい」
「え、今すぐ?急ぎなの?」
「そう、今すぐ。塩ちゃんに持ってきてもらおうと思ったら、彼女も受付から離れられないらしいの。だから、菜緒、お願いっ」
すぐにその郵便物がいるのだろうか。
よほど切羽詰まってるらしく、佐奈は両手を合わせてお願いポーズをしてくる。
「わかった。すぐにもらってくるね」
書きかけのお仕事ノートを閉じて、すぐさま一階のフロアに向かう。
急ぎつつも周りを警戒し、エレベーターの階数ランプを確認して専務が乗っていないことを祈る。
幸いエレベーターには誰も乗っておらず、ホッとしながら一階まで下りた。