オオカミ専務との秘めごと
「オトコなんて、いないから」
気迫を込めてきっぱりと言うと、佐奈はあからさまに残念そうな声を出した。
「なーんだ、違うのかあ」
そう言って、つまらなそうに、指先で栗色の長い髪をくるくると弄る。
ピンクベースにラメがちりばめられたネイルがすごく可愛い。
それに佐奈のメイクはいつも清楚で、お嬢様系の服が良く似合う。
傍にいるといい香りが漂ってくるし、男性は、こんな子を好きになるんだろうなと思う。
それに比べると私はすごく地味だ。
髪は黒で、肩まであるのを一つにしばっている。
ネイルはしたことがないし、服もデパートセールの売れ残りな感じのもの。
自分にお金をかける余裕がないから仕方がないのだけど、極々たまに切なくなる。
だってもう二十五歳だし、人並みに恋愛がしたくなるのだ。
ちょっとへこみつつパソコンを立ち上げて、取引先から来たメールの返信をする。
そして始業時間を十分も過ぎれば、何本もの電話が鳴り出す。
私と佐奈の間にある電話は、仕事の手待ち状態の彼女が率先して受話器を取る。
「ありがとうございます。オオガミフーズ営業部でございます」
佐奈のそつがない流れるような応対を聞きながら仕事をしていると、営業主任の楢崎さんがデスクの脇に立った。
「神崎さん、これ全店舗分のアンケート。悪いけど、来週の金曜までに集計出来る?」