あの春、君と出逢ったこと




ボソリとそう呟いた煌君の手が私に伸びてきて、そのまま、私の頬を強くひねる。


『……変な顔』


『ほぉふんのふぇいにゃからね!』



私の顔を見て笑みを浮かべる煌君に、慌てて抗議する。


頬をつねられているせいか、自分でも、何を言っているのか分からない言葉が出てくるだけだけど。




『これ以上ダラダラしていたら、本気で遅刻するな』



そう言いながら私の頬から手を離す煌君から、慌てて距離をとり、自分の頬を抑える。



ドキドキ、とかじゃない。
トキメキとかじゃなく。



ただ単に、頬がヒリヒリと痛む。




『……行くぞ』


煌君は、睨んでいる私を見て口角を上げ、先に進んで行く。



『……なんなんだろう……⁇』



煌君の行動に、疑問を持ちながら、私も煌君の後を追い、急いで体育館に向かって行った。







『おはよう! 夏川!』



体育着に着替え、体育館に入った瞬間、私を呼ぶ大きな声が響き渡る。




目の前にいたのは、いかにも体育会系教師で、熱血教師なんて言葉を頭に思い浮かべるような教師。




『……おは、ようございます』



そんな先生に苦笑いしながら返事をする。


……あれ? 今って、午後だよね?

おはようが可笑しい気がするのは、私だけかな?



そんな事を思いながらも、口には出さない。


……面倒そうだからね、この先生。



『山先生ー! 今日は留美先生居ないんですか?』




熱血教師、こと、山先生に女の子が手を挙げながらそう言う。



留美先生は、体育女子担当の先生なのかな?


『ああ、そうだ。

と言うわけだから、今日は男女合同でバスケをする事にした!』





< 17 / 262 >

この作品をシェア

pagetop