あの春、君と出逢ったこと
『じゃあ、始めるわよ』
『よろしくお願いします、翠先生‼︎』
2月14日。
バレンタインデー当日。
私は軽くそう言って、チョコを作る準備を始める。
準備が終わり、エプロンをしてふざけて翠に向かって敬礼すると、翠が呆れたように笑った。
『とりあえず聞くけど、料理はできるわよね⁇』
そう聞いてきた翠に頷いて、苦笑いを浮かべる。
確かに、私が家でご飯を作ってるから、料理はできるし、得意なんだけど。
『……昔から、お菓子だけはどうしてもダメで』
昔から、お菓子を作ろうとして、ことごとく失敗を続けてきた。
なぜか分かんないだけどね⁇
毎回、真っ黒に焦げたのが出来上がってしまう。
『……教えるから、急いで作るわよ』
『ラジャッ!!!』
翠の言葉にもう一度ふざけて敬礼をすると、今度はそれには触れずに翠がチョコの湯煎を始めた。
……出た、翠お得意のスルースキル。
これ、地味に結構ダメージが与えられてしまうんだよね。
『バカなこと考えてないで手を動かしなさい。
どうせ失敗するんだから、急いで作るわよ?』
『失敗するって、酷いよ翠‼︎』
文句を言いながらも手を動かして、完成したものをオーブンに入れる。