あの春、君と出逢ったこと




『……行くぞ』



抵抗せずに肩を揺さぶられたままの私の手首を掴み、それだけ言った煌君が、私から翠を引き剥がす。




『あーら。

私に嫉妬かしら?』




私の手を掴んだままの煌君を見て、挑発するように笑う翠を煌君が睨みつけ、二人の間にバチバチと火花が散っているのが見える。



……気がする。




『器の小さい男は、嫌われるわよ?』


『……関係ないだろ?』



ああ言えばこう言う。

翠の言葉に煌君が返し、返された煌君の言葉に翠が突っかかる。



未だに私の手を掴んだ煌君が翠と口喧嘩を始めたため、終わる気配のない口喧嘩の間に挟まれて溜息をつく。



『はいはい、煌も翠チャンも落ち着いけって!

煌、お前は栞莉チャンの手離してやれよ?

お前らの口喧嘩に挟まれるのは、なかなか疲れるんだからな』




終わる気配のない口喧嘩を続ける翠と煌君の間にスッと割り込んだ快斗君が、苦笑いを浮かべてそう言う。




『そうね……。栞莉、ごめんね』



なぜか煌君ではなく私に謝ってきた翠から、意地でも煌君に謝りたくないって気持ちが伝わってくる。


『だ、大丈夫だよ』




そんな翠に苦笑いを浮かべながら返事をすると、グイッとまた手を後ろに引かれる。




『……行くぞ』



『ちょ、煌君⁉︎


あ、翠、快斗君! また明日ね‼︎‼︎』





私を後ろに引いた煌君が、私を引っ張ったまま歩き出したため、慌てて二人に向かって手を振ってそう言う。




そんな私に向かって翠と快斗君も手を振り返してくれたのを見て、慌てて前に向き直る。




煌君に合わせるため、少し早歩きで歩いて煌君の隣に並んだ。



『……ここなら良いか』



校門を出て少し駅の方向に向かって進んだ所で煌君が歩くスピードを緩める。



『ん?』



私に合わせるようなペースになった煌君を不思議に思い、思わず首を傾げてしまう。



『俺のペースじゃ速いだろ?』



そんな私を見て笑った煌君は、私も自分の足を指して、浮かべた笑みを、ニヤリとした笑みに変える。



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