あの春、君と出逢ったこと




『……煌君』



黒い塊に近づいてそう呟く様に声をかけると、うっすらと反応した煌君が瞼を少しだけ開けて私を見る。



『……だ、れ』



あ……そう言えば暗いから、分かんないよね。


煌君の言葉にそう気づき、あまり大きな声を出さない様に注意しながら、声を潜めて自分の名前を言う。


『……し、おり……⁇

夏川……夏川栞莉⁉︎』



意識が朦朧としていたのか、何度も私の名前を連呼した煌君が、私の名前を叫びながら勢いよく起き上がる。



『こ、煌君⁉︎ 寝てなきゃ‼︎』




あれ?
薬飲むから、起きないといけないんだったっけ?



言葉を止めて考え込む私を見ていたのか、チラリと煌君に向けた視線が交わりあう。




『し、おり? 何でこんな所に……⁇』



未だ状況が理解できていないのか、戸惑う様な声色でそう言う煌君に向かって笑みを浮かべる。



『煌君、薬と着替え持ってきたの。

後、タオルとか。

薬、飲める⁇』




私の言葉にゆっくり頷いた煌君を見て、薬と水を差し出す。


煌君がそれを掴んだのを見て着替えとタオルを置いて部屋から出ようとした私の手首を、後ろから煌君に引かれる。




『煌、君?』



驚いて煌君の方を振り返った私から視線をそらした煌君が、ボソリと何かを呟く。



『煌君、ごめん。聞こえなかった』




そう言った私の言葉を聞いて少しだけ肩を上にあげた煌君に、首をかしげる。



『……行くな』




風邪だから、なのか。


少しだけ掠れ、いつもより低い煌君の声が私の耳に届く。



煌君、今……行くなって、言った?




私の聞き間違えじゃないよね?

煌君が、私に行くなって言った!?




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