あの春、君と出逢ったこと
『……俺は一生、お前には勝てないな』
栞莉に聞かせるわけでもなく、独り言の様にそう呟きながら、自分の人差し指に栞莉の髪の毛を絡ませる。
人差し指の髪の毛を外し、再度頭を撫でる様に、髪の毛に指を通す。
クセがなく、無駄に柔らかい髪の毛を俺の指が通り抜けていく。
暫く、ボーッとしながらそれを続けていた。
『……薬、飲まねえと』
ふっ、と。
視界に入った薬を見て、ため息まじりにそうこぼす。
錠剤系の薬苦手なんだよな。
飲みにくいし。
第一、この時期以外体調なんて崩さねえから。
さっきよりも大きな溜息をつきながら、ベッドに掛けていた腰を重々しく上げる。
ギシッと、ベッドが微かに音を立てたと同時に、寝ている栞莉から小さい声が聞こえ、固まる。
『……煌君?
起きたんだ〜……。
もう、体調は大丈夫なの?』
……ベッドの音のせいで、起こしたか。
内心舌打ちをしながら、それを隠す様に、無表情で栞莉を振り返る。
眠たいからなのか、寝起きだからなのか。
いつもより少し緩い口調で話す栞莉に、思わず顔の熱が上がる。
……今、暗くてよかった。
どうせ栞莉の事だ。
俺が照れてるのなんか見たら、レアだって騒ぎ立てるに決まってる……からな。
『……何でいる』
照れているのを隠すため、強い口調になった俺に気づきもせず、栞莉が首を傾げる。
……何でそこで首を傾げる⁇
お前がこの部屋に来たんだろ。
それを聞いてるのに、首を傾げる意味がわからない。
『煌君、覚えてないの?』
少し驚いた様に、恐る恐るそう聞いてきた栞莉に今度は俺が首を傾げる番だった。
……何だよ、覚えてないって。
俺、寝ぼけてる間に何かした、とか?