あの春、君と出逢ったこと
『覚えてないならいいよ!
それに、覚えてない方がいいって言うか……』
そう言いながら、たどたどしく俺から目をそらした栞莉を見て、眉間にしわを寄せる。
覚えてない方が良いって、何だよ。
いくら聞いても答えてくれなさそうな栞莉に溜息をつく。
そっちがその気なら、俺にも考えがある。
いきなりニヤリと笑った俺を見て、何かを悟ったのか慌てて部屋から出ようとした栞莉の腕を掴む。
一瞬、ビクッと肩を震わせた栞莉が、恐る恐る俺の方を振り向いて顔に無理やり笑顔を貼り付ける。
……凄え引きつった笑み。
『……言わねえのか?』
グイッと、自分の方に強く栞莉を引っ張って、顔ギリギリまで近づける。
いきなりの事に驚いたのか、早い瞬きを数回しながら顔を赤く染めていく栞莉。
『な、なっ⁉︎』
口をパクパクしながら俺を驚いた様に見てくる栞莉に向かって、口角を上げてニヤリと笑って見せる。
『なぁ、言わねえの?』
……風邪だから、って。
そういう事にしておこう。
こんな事しても、覚えてないって言えば終わりだしな。
頭の中でそう考えながら、未だに固まっている栞莉を見る。
『い、うも言わないも……、別に煌君には関係ないし‼︎』
開き直ったのか、俺から顔をそらしながらそういった栞莉に、眉間にしわを寄せる。
……関係ないだと?
『俺が寝込んでる間のことじゃ無いって事か⁇』
違うって事は分かってるけど、栞莉を焦らせるためにワザとそう言って栞莉の反応を見る。
『煌君、絶対確信犯でしょ‼︎』
そんな俺の考えに気づいたのか、俺を睨みつけながらそう言った栞莉に、余裕そうな笑みを浮かべて見せる。