妻に、母に、そして家族になる
……でも。

もう一度、バックミラーでハルくんの姿を見る。

ときどき見せるハルくんの悲しそうな表情。

空気に溶けて消えてしまいそうな雰囲気。

この秘密は彼の話しの中にあるような気がした。

なら、聞くべきだ。

これからもハルくんと関わりたい。

悲しみの正体を知りたい。

そう思うと、胸の痛みが軽くなっていく気がした。

「はい、お聞きします」

彼は緊張を和らげるように小さく息を吐いた。

そして、後部座席で眠るハルくんを起こさないように静かに話し始めた。

「妻とは会社の同期で、意気投合して付き合う様になったんだ。ある日、妊娠したって言われて、籍を入れた。やがてハルが生まれて、俺は家族の為に一層仕事に打ち込んだけど、仕事ばかりで家族にあまり目を向けられなかった。

そのせいで妻と喧嘩ばかりするようになって、ますます俺は仕事に打ち込むようになったんだ。だから俺は……妻がハルに虐待をしているのに気付けなかった」
< 39 / 128 >

この作品をシェア

pagetop