妻に、母に、そして家族になる
マンションが火事になって数日後。

「元気ないけど、どうしたの?」

信濃さんとオシャレなカフェでランチをとっていると、彼が眉をハの字にして心配そうに尋ねてくる。

ハルくんの夏休みが終わってからと言うもの、時々彼とランチの時間を共にしていた。

そこで互いに他愛のない話をしたりして、いつもならとても楽しい時間なのだが、今は気分が重い。

いや、気分が重いのは、火事で住んでいたマンションに住めなくなってからずっとだ。

何をしていても、不安になる。そして眠れない日々が続いていた。

こんなとき、誰かに話してこの気持ちを和らげればいいと思うけど、それ以上に話したことによって誰かを心配させてしまうのが嫌だった。

福岡にいる父や母に話せればいいけど、話したら絶対に帰ってこいと言われる。

そして実家に帰れば、自由な時間は終わって、すべてが定まってしまうよう気がした。
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