クールな御曹司と溺愛マリアージュ
予定通りにはいかなかったけれど、なんとか乱れた心を整えて佐伯さんの少しうしろを付いて歩く。

うしろ姿でさえ素敵だと思ってしまうのは、好きだと確信したからなのかな。

沢山の人が行き交う中でも、私には特別に見える佐伯さんの背中。


「そういえば……」

突然くるりと振り返って佐伯さんに見つめられた私は案の定、分かりやすいほど心臓がドキッと跳ねる。


「その服、買ったのか?」

「あっ、はい……」

さすがに今日の為に昨日の夜焦って買ったとは言えない。

佐伯さん、どう思うだろうか。やっぱりダサいかな……。


「いいと思う」

「え?本当ですか?」

「ああ」

「本当に?」

「嘘ついてどうすんだ」



嬉し過ぎる。ベタ褒めされたわけでもないのに、泣きそうだ。

私は左手を胸の前に当ててキュッと握り、そのまま静かにガッツポーズをした。

どうしよう、嬉しくて顔がニヤケちゃう。

どこかの有名なファッションデザイナーに褒められるより、佐伯さんのぶっきら棒な『いいと思う』という言葉の方がずっとずっと嬉しい。


「いつまで突っ立ってんだ。行くぞ」

「はい!」

駆け寄る足取りも、どこか軽く感じられる。



「あの、どこか他にも行く所があるんですか?」

何も考えずに歩いていたけれど、約束の時間にはまだ早過ぎる。

「ああ、それなんだけどな……」


しばらく歩いたところで立ち止まった佐伯さんは、右側にあるお店を見上げた。



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