クールな御曹司と溺愛マリアージュ
一階はカフェで、テラス席には朝からお洒落な女子大生風のグループが座っている。

その上にあるお店を佐伯さんにつられて見上げると、白い壁に可愛い木のドアが目に入ってきた。


「ここって……」

「美容院だ」

「美容院、ここが目的地ですか?」

「美容院を柚原に紹介しようかと思ったが……」

そこまで言って口を噤み、視線を下げてしまった佐伯さん。


「どうしました?」

話す時は必ず相手の目をジッと見つめるのが佐伯さんだけど、いつになく困ったように眉を潜めてアスファルトばかりを見ている。

こんなにも佐伯さんを悩ませている原因はなんだろう。


「ここまで来て今更気付いた。柚原は会社の同僚である前に、女だということに」

「……えっと、はい。一応女ですが、それが何か問題でしょうか?」

遠慮なくハッキリと物言う人のはずなのに、何を言いたいのか今のところ全く分からない。これもまた貴重な佐伯さんの違った一面なのだけど。


「つまりだ……」

ようやく私を見てくれたと思ったけれど、その視線は目ではなく少し上を見ているようだ。


「良かれと思ったんだが、俺が想像するよりもずっと、女は髪が大事なんじゃないかって気付いた」

なかなか佐伯さんの言葉の真意にたどり着けないことがもどかしい。


「だから柚原にも、行きつけの美容院があるのかもしれない。もしかしたら余計なお世話だったんじゃないか、初めて行く美容院で自分の髪を触られるのは嫌なんじゃないか……」


そういうことか……。

分かりにくいヒントを繋ぎ合わせて、やっと佐伯さんの困り顔の答えにたどり着いた私は、自然と笑みが漏れた。



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