クールな御曹司と溺愛マリアージュ
私達はパスタを綺麗に完食し、食後の紅茶でひと息ついた。


「ふー。仕事の途中だっていうことを忘れちゃうくらい、なんだか落ち着いちゃいました」

「この後会社に戻るんだからな。外に出たら気持切り替えろよ」

「分かってます」


ちゃんと分かってる。二人で食事をしたこの特別な時間は仕事の延長線であって、決してプライベートなんかじゃない。

だけど嬉しいんだもん。佐伯さんの苦手な物を知ることが出来たし、それを克服する姿も見れた。

こうやって向かい合って食事をするだけで、私にとっては幸せ以外のなにものでもない。

短い時間を無駄にしないように、聞きたいことを聞かなきゃ。



「ずっと聞きたかったんですが、この会社を自分で設立しようと思ったのは、いつ頃なんですか?」


すると佐伯さんは、持っていたカップをゆっくり下げ、黙ったまま窓の外に視線を移す。

何かあるのかと、思わず私も窓の外を見てしまった。

綺麗な青空からは、強い日差しが差し込んでいる。外を歩く人たちは皆、暑そうに顔を歪めていた。



「大学在学中はそこまで明確に考えていたわけじゃないが、仕事をしていくうちに段々と見えてきた……という感じだ」

「そうなんですね。じゃーやっぱり凄く勉強したんですか?」

「あたり前だ。自分の中でハッキリと目標が決まった後は、勉強と仕事に人生を費やしてきた」


これまでどういう道を歩んできたのか、どういう気持ちでいたのか少しでも知りたくて、私は食い入るように佐伯さんの話しに耳を傾けた。


「でも大学生とか二十代前半って、遊びも最高に楽しい時期じゃないですか?もっと遊びたいとか、そういう気持ちは生まれなかったんですか?」


「いつが楽しい時期なのか、決めるのは俺だ。俺にとって二十代は試練の年、勉強の年だと決めてきた」


「なるほど、佐伯さんは若い頃から佐伯さんだったんですね」

「なんだそれは」


見た目は実年齢よりも若く見える佐伯さんだけど、考え方はとても三十一歳だとは思えない。

もしかしたら子供の頃からこんな風に真面目で真っ直ぐで冷静だったのかも。そう思うとなんだか面白い。

性格はこのままの小さな佐伯さんを思い浮かべ、クスッと微笑んだ。


「なに笑ってんだ」

「はっ、すいません。あの、あともう一つ聞きたかったんですけど、どうしてワームではダメだったんですか?」



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