クールな御曹司と溺愛マリアージュ
私の質問がどこかマズかったのか、佐伯さんは眉間にしわを寄せ、腕を組んだまま視線を下げた。

「えっと……すみません。なんか私変なことを」


「いや、別に構わない。ワームの製品は好きだし、ワームが駄目だというよりも、自分のやりたいことをやりたかったんだ。恵まれた環境のくせに贅沢だと思うだろ?」

「そんなこと思いません」


もし私だったら、就活もせずそのまま親の会社に就職していたと思う。

そうすれば、勝手に社長にだってなれる可能性があるわけだし。

でもそれをしなかった佐伯さんは、それだけ今の仕事がやりたかったということなんだろう。


「親に反発してとかでもなく、ただ自分の目指すものの為にひたすら努力をしてきた。でもな……」


手元のカップを見つめる佐伯さんの目は、いつもの冷静な顔、時々見せる優しさや営業モードの時、そのどれにも当てはまらない初めて見る表情だった。


「結果的に、ワームという名前が入った会社を作ることしか出来なかった。自分のやりたいことを自分で。そう思っていたが、結局親の力を借りることを選んだんだ」

手に力を込めた佐伯さんは、どこか悔しそうに唇を噛み締めた。


「やろうと思えば出来た。だがワームの力を借りなかったら、俺について来てくれる社員に満足のいく給料を渡せるかも分からない」


つまり佐伯さんは、自分の意地と社員を天秤に掛けた。


「情けないよな。やりたいことを自分でやるって、若い頃から言い切ってたくせに」


初めて見る佐伯さんの弱音に、胸が締め付けられた。

だけど佐伯さんの選んだ道は、そんな風に悔しがらなければいけないことなんだろうか。


「私……情けないだなんて、これっぽっちも思いません。社員のことを考えて選んだ道のどこが情けないんですか!?
いいじゃないですか、会社設立の為に親の力を少し借りたって」


私なんて、未だに親からお米が送られてくるし、子供の頃からずっと親に頼ってばかりだ。

「親なんだから、なにも恥じることなんかないし、むしろそこからは自分の力で上を目指そうと必死に頑張ってるじゃないですか」




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