【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 キュリオとダルドの会話に恐れ多くも立ち会えたことを幸福に思いながらも、一切口を挟めるような立場にない少年は、彼らが発した言葉の数々を記憶に留めながら自分なりに調べようと秘かに画策しており、この夜に起こることをしっかり記憶に留めたいと願った。

(私の疑問など最初から口にすることは許されていないのはわかっている。キュリオ様とダルド様の御話が聞けただけで十分だ)

 盗み見するように美しい人型聖獣の彼を見やるが、ダルドなどそこにアレスの存在があることなど忘れたように見向きもしないあたりがまた彼らしい。
 
「どこに行くの?」

 アオイを抱いて歩き出したキュリオは広間の奥へと歩みを進め、その少し後ろをダルドが続く。

「君たちが居た場所の再現をと思ってね」

 ダルドへと視線を向けることなく真っ直ぐ前を向いて言葉を発したキュリオ。無表情にも見えるその端正な横顔からは心の揺れなど見られなかったが、アオイを抱きしめる腕にはいつもより力が籠っている。

「それなら森の奥の……」

 花冠を作ったその野原へと案内しようとするダルドを、ようやくこちらに向き直ったキュリオが軽く手を上げ制止する。

「おおよその場所はわかっている」

 そうキュリオが言い終える前に、あたたかな風がアオイやダルドの頬を掠め、この広間にあるはずのない色鮮やかな花弁が目の前を舞うようにたゆたう。

「……え?」

 異変に気付いたダルドが目の前で揺れながら降下していく花弁を受け止めようと手を伸ばすと、それはわずかな感触とともに手の平におさまった。

「きゃあっ」

 脇ではアオイの興奮したような高く楽し気な声が聞こえる。
 キラキラと輝いた瞳はあたりを見回し、舞い踊る花弁を掴もうとキュリオの腕の中から身を乗り出して手足をパタパタと動かしているのが愛らしい。そしてその頭上には柔らかな日の光が優しくこちらを照らしており、足元には床を埋め尽くすほどの花々が咲き誇っていた。

「凄い……これキュリオの魔法?」

「ああ。私も知っている場所の再現なら可能だ」

 どうとでもないというようにさらりと答えた彼だが、キュリオの魔法がどれほど優れているかがわかる。

(感触に……匂いまで本物みたいだ)

 鼻孔をくすぐる花の香り、数多ある花の品種や土の香りまでもが鮮やかに再現されたこれほどの魔法を使える人物をダルドはキュリオ以外に知らない。

「少し光を抑えようか」

 再現の魔法の力といえど、この夜更けに日の光を浴びるのは少なからず不調をきたす恐れがある。魔法が心身に影響を与えるメリットもデメリットも理解している彼は、己の作り出した日の光を見上げただけで微調整していく。
 ――そして数秒後。まるで木陰にいるかのような心地さと風の穏やかさに確かな悠久の大地を感じたダルドは静かに腰をおろした。

「うん。あとは僕がアオイ姫に作った花冠があれば条件はまったく同じだと思う」

 これが魔法なのか現実なのか? この広間の本来の姿を知らない人物がここへやってきたら、間違いなくこの一面の花々はここへ植えられたそういう部屋なのだと思うに違いない。

 細部まで再現できるということは、キュリオがここまで鮮明に記憶しているからだと言えよう。茎の瑞々しさやしなり具合、花びらのしっとりとした指触り、どれもが感じたままの生きている植物そのものだった。
 地におろしてもらい、疑うこともなく花々と戯れているアオイは、時折目の前を優雅に舞う蝶に目を奪われながらもキュリオやダルドを振り返っては一緒に遊ぼうとでも言うように笑いかけてくる。

「おいでアオイ姫。花冠を作ってあげる」

 神秘的な眼差しで視線を合わせる様にしゃがんだダルド。優しくアオイの手を引きながら、自分の膝へ腰を下ろすよう促してくる。
 アオイは一度躊躇うように振り返り、キュリオが微笑んで頷くのを見届けてからダルドの誘いに応えた。

「……」

 アオイの髪の色に似た淡いピンク色の花を選びながら、器用に花冠を作っていくダルドの指先をアオイは楽しそうに見つめている。

(……そろそろだな)

 複雑な想いを胸に抱えたキュリオは、覚悟を決めるように深い呼吸を繰り返した――。

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