不機嫌なキスしか知らない



「紘、もっと」

「はいはい」



そんな会話が、ドア越しに聞こえる。

どくん、と心臓が鳴って、頭の奥が熱くなった。


なにしてるの、こんな学校で。
空き教室で、人気がないとはいえ、誰か通るかもしれないのに。


信じられない。そう思っていると、突然、藍沢くんの目がこちらに向いた。


息を飲む間もなく、視線が絡まる。

吸い込まれるような綺麗な瞳が、私を捉える。


表情ひとつ変えずに、私を見たまま先輩の足をなぞる藍沢くんに、なぜだか視線が逸らせなくなってしまった。


……なんで、こんなの、見たくないのに。


なのに彼の視線が、私を縛って離してくれない。

ドクン、ドクン、と心臓が跳ねる。
頭の奥、熱い。


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