不機嫌なキスしか知らない
ゆっくり近づく紘の顔。
「──早く目、閉じろよ」
命令みたいなその言葉に操られるようにして目を閉じる。
優しく触れた唇は、一瞬だけ触れてすぐに離れた。
ほんのりとスポーツドリンクの甘い味が、私の唇に残る。
いつもより軽いキスが物足りないだなんて、私はきっとどうかしてる。
紘を見つめたら、まだ不機嫌な顔のまま。
キスする時、目を閉じたから、私は気付かなかった。
──紘の本当の優しさに。