不機嫌なキスしか知らない
「なに、息止めてんの?」
ばかにしたみたいに笑う、紘。
宝物に触れるみたいに、優しいキスしておいて。なのになんでそんな顔するの。
不機嫌なような、呆れたような、意地悪なような、もうよくわからないけれど。
でも優しくない顔。キスはばかみたいに優しく触れるくせに。
「だ、って」
だってこんなキス、したことなかったのに。
勝手に私のファーストキス奪っておいて、ばかにしないでよ。
「……なあ、アイツのどこが好きなの?」
え、と声を漏らす。
アイツって、圭太のこと?どこが、って。
「そんなの、言わないよ」
「言えよ。キスまでした仲じゃん」
カチ、カチ、と秒針の音がうるさい。
誰かが来るかもしれない教室でキスしてしまった背徳感が、今さら襲ってくる。
紘は全然平気な顔してるけど、私の頬の火照りはなかなかおさまらない。