世界はきみに恋をしている。
カナは本から視線を上げて、俺を見た。
開いている窓から流れ込んでくる秋風が、カナの黒髪を揺らしている。
表情なんて一切変えずに、カナは再び本へと視線を落とす。そして。
「………知りたい?」
いつになく真面目な声。俺はちょっと怖くなった。だって本を持ったカナの手が、少しだけ震えていたから。
「………知ってもいいなら、知りたい」
何かあるってわかってた。
それがどれだけ大きいものなのか、はたまた何でもないことなのかはわからないけど。きっと何かあるんだって、思ってた。
カナはガタリと席を立つ。「きて」というから、俺も立ち上がってカナの後を追った。
静まり返った美術室に、二人の足音が重なって響く。
カナはポケットから鍵を取り出すと、それ「美術準備室」と書かれた扉の鍵穴に差し込んだ。
授業スペースの大きな黒板の横に、その教室の扉はある。俺は一度だって、ここに入ったことはない。
____というか、カナが鍵を持っていたことだって、全くもって知らなかった。