世界はきみに恋をしている。
ガチャリ、と鍵が開く音がして、カナがためらいもなくドアノブをひねる。
ギイイ、と鈍い音がして、扉が開く。それは、本当に久しぶりに開かれたとでもいうように。
「絵の具くさいけど。入って」
俺はカナに言われるがまま美術準備室へと足を踏み入れた。
瞬間、息苦しいほどのカビと古くなった絵の具のにおいが鼻を突き上げた。
床も壁も絵の具で汚くよごれていて、湿気で床は歩くたびにギシギシときしむ。大きな本棚と机があるのは確認できるが、それ以外は美術関連の本やスケッチブック、彫刻、模型……とにかくいろんなもので埋め尽くされている。
足の踏み場もないほどだ。
でもそのほとんどがホコリを被っていて、色あせた絵なんかから、もう随分と前に描かれたものだと予想がつく。
「んーと、ここらへんかな…」
「なにがだよ……ここ掃除とかしねえのか……」
カナは俺に構わず、さっきから転がった美術作品を物色している。
俺は、一番近くにあった淡い色の絵画に指を這わせた。指先にホコリがつく。ザラリとした感触。
「あった」
カナが奥の方でそう言った。俺はどうにか足の踏み場を見つけて、カナがいる方まで入って行く。
「ほら、これ。」
カナはそう言って、俺に一枚の絵を差し出した。