足踏みラバーズ
早く蒼佑くんに言いたい。
瑞樹と恵美がつき合い始めたっていうんだよ。でもそんな浮かれた顔、ちっともしてなくて、なんだか不気味な感じしかしなかったんだよって相談したい。
そんなときに限って、家の中はがらんどうで。
「蒼佑くーん……」
せめて電話で話してみよう。
携帯をタップして耳にあてても、聞こえてくるのはコール音だけ。
少しすると、「ただいま留守にしております」と事務的な女性の声でアナウンスが流れてきた。
「もう!」
留守電にはメッセージを残さずに、電話を切った。
もやもやした感情が、次第にイライラに変わってきて、携帯を投げつけた。壊さないように、柔らかいソファーのクッションの上に、ぼすっ鈍い音をたてて。
LINEを送るとか、メールを送るとか、他にも連絡の手段なんていくらでもある。けれど、一方通行なものではなくて、ちゃんと、話がしたかった。
次の日の朝、寝過ごしてしまってばたばたと身支度に追われていた。
ゆっくり過ごす暇もなく、駅まで走って行った。
事故で運転見合せと、駅員が忙しなく走り回って、対応に追われていた。
「ついてない……」
タクシー乗り場も急なハプニングでごった返している。……自分の足で行けなくはない距離だ、走っていくしかない。
髪を振り乱して必死に走って向かったら会社に着く頃にはぼろぼろになっていた。
「朝から災難でしたねぇ。大丈夫でしたぁ?」
ぜえはあと息を切らす私に、お水を差しだしてくれる。ありがとうございます、と声にならない声でお礼を言って受け取った。
「本当っすよね。いつもの定例会議の時間だったら、余裕で間に合いますもんね」
まあまだ編集長来てないっすけど、とどかっと椅子に腰かける。ようやく息が整ってきて、危なかった、と二人に漏らした。
移り行く季節が、またイルミネーションを輝かせている。
キラキラと見目良い光は、相も変わらず、立ち行く男女を寄り添い愛を深めるきっかけをくれるけれど、今年は高層ビルの夜中でも変わらす点灯している灯りと、ギラギラ輝く商業ビルのネオンに負けて、霞んで見えた。
「おかえりー」
ゆるっと間延びした声が迎えてくれる。
「……! ただいまっ」