足踏みラバーズ



 一年ほど、経っただろうか。




昨年、中島くんと彼の担当作家さんと、ホテルに取材をしに行った日。


ホテルの真ん前で女の人と腕を組んでいた瑞樹と鉢合わせした。




あまりにも驚愕の出来事だったから、瑞樹のほうにしか目がいかなかったけれど、隣にいた女性は恵美だったと聞いて、驚きを隠せなかった。



確かにあまりよくは見なかったけれど、当時、既に友人関係を築いていたつもりだったから、それに気づかなかった事にも愕然とした。

だってあのとき見た女性の後ろ姿は、弾むようなウェーブにパステルカラーのコートを着て、寒い季節だというのに30デニールくらいのタイツを履いたすらっとした足が覗いていた。



私の知っている恵美は、サラサラしたミディアムロングのストレートを崩さなかったし、普通のオフィスカジュアル、といった黒いコートにパンツのイメージが出来上がっていた。



それでも友人ならばわかると思うのだけれど、いつものサバサバしたキャリアウーマンといった印象は皆無で、ふわふわしたぶりっこの女の子、みたいな印象だったから、私の中の恵美とあまりにかけ離れていて、認識できなかったのだと思う。









 私とつき合っているときなのか、別れた後なのかはわからない。


恵美とヤったんだよ、と言いづらそうにしていた。

身体の関係を持った女性とは一回きりとルールを決めて、完全に割り切ったつき合いだったらしい。


それを聞いて、他に好きな人ができたんじゃなかったんだ、と少しほっとしたけれど、浮気は浮気。決して褒められるものではない。







 
 恵美と関係を持ったのはラブホテル。

事情後、休憩とばかりに携帯を触る瑞樹の手元を盗み見たのだという。


その待ち受けがどうやら私の写真に設定していたらしく、ばかだなと笑ったけど、現実はそう笑えるものでもなかった。






 同じビル内に勤務している女だとピンときて、それが私だということもすぐにわかって。

言い方は悪いかもしれないが、私の素性を探るべく声をかけてきたのを知って呆然とした。

偽りの友人関係にショックを隠せずにいた。






 私という人物を品定めして、タイミングを見計らって行動に移したというところだろうか。

一度関係をもったあとも、もう一回、もう一回とずるずる来てしまったがゆえに、執拗に好意を向けられているのだという。






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