恋してバックスクリーン

土日祝は、朝九時に開店するバッティングセンターのドアを、勢いよく開けて寿彦さんを探した。

「おはよう」

先に私の姿をみつけた寿彦さんが、相変わらずの無表情で挨拶をした。

「……よかった」

息を切らし、ため息のような声をもらすと、その場にしゃがみ込んだ。

「なにが?」

『浮気、しているのかと思った』

そう言いかけて、言葉を飲み込む。しゃがんだまま見上げると、大きな影は眉をひそめて私を見ていた。

寿彦さんが浮気なんて。できるはずないやん!? そもそも、そんな物好き、いるわけない!

「へへへ」

そう思うと、なんだかおかしくなって、笑った。

「気持ち悪い」

大きな手が、私をグイッと引き上げた。立ち上がり、ベンチに座ると、寿彦さんが缶コーヒーを買ってきてくれた。

「変な夢でも、見た?」

「ん、うん。まぁ、そんなところ」

手渡された缶コーヒーは、ほんのりと温かい。小さく「いただきます」を言ってひと口飲むと、心まで温められるようだった。

そんな私を横目に、寿彦さんはバッターボックスに入っていった。

「ふふん」

浮気なんて、なにかの間違い。鼻で笑うと、また缶コーヒーを口にした。


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