恋してバックスクリーン
「寿彦、わかりにくいよね? アイツ、心の扉が三重構造だから」

『心の扉が三重構造』!? 思わず穂花と顔を見合わせた。

「オレは、高校の野球部で知り合って。三年の付き合いで一枚目の扉が開いた。大学は別だったけれど、時々会ったりして、四年で二枚目の扉が開いた」

寿彦さんの心の扉を二枚開くのに、七年!?

「そんなにかかったんですか? 全部の扉を開くには、十年はかかるってことですか?」

「オレは、ね。でも、羽島さんは、一年くらいで一枚目の扉を開いたんじゃない?」

「一枚目の扉? 開いた感じ、しないです……」

「いやいや。心の扉が開いていなければ、恋人がするようなこと、しないよアイツは」

たしかに。言われてみれば、そうだけれど。心の扉が開いた、と感じるのはどんな瞬間なんやろうか……。

「心の扉が全部開いたら、なにか変化はありますか?」

「喜怒哀楽を表現してくれる」

「ホンマですか!?」

驚きのあまり、立ち上がった。いつも無表情で、なにを考えているのかわからない寿彦さんが、喜怒哀楽!?

想像しただけで、興奮のあまり、声がうわずった。

「ああ見えても寿彦、羽島さんのこと溺愛しているから。がんばって心の扉、開きなよ」

寿彦さんが私を溺愛しているやなんて、信じられないけれど……。

「がんばります」

寿彦さんが唯一、心を開いている海津さんの言うことやから。自信を持ってみようかな? 寿彦さんから愛されている……って。




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