私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。


「いつも俺に喧嘩ふっかけるみてーに、言えばよかっただろ!?」

「だって、お客様……」

「いつも強気なくせに、急に黙ったり、泣いたり……わけ分かんねぇんだよ、お前!!」

ガシッと肩をつかまれる。
その手がくいこんで、痛かった。


「一護、痛いっ」

「っ……屋上で泣いてた時も、教室で辛そうな顔してたときも、お前何一つ話してくれねぇし!!でも、東野にはあんな風に笑えるって……何でだよ…」


私の肩を掴んでいた手から、力が抜けていく。
悲しげに歪められた一護の眉に、胸がチクンッとした。


何も話さないのは、話せないから。
東野くんに笑えるのは、友達だから…だよ。


「どうして、私の事なんてほっとけばいいのに…」

紗枝が好きなら、紗枝の事だけ見ててよ。
私の心を、乱さないで。

好きだと思う度に辛いのに……っ。



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