私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。


***


「お疲れ様でしたー」


そう言ってバイト先を出ると、雨が降っていた。
こんな時に限って、折りたたみ傘を忘れてくる私。


「はぁぁ〜」

ため息とともに、幸せが逃げていくのは、本当かもしれない。


最近はカウント出来ないほどため息をついてるからだろうか、特に今日は、客に絡まれるは、一護と喧嘩するは……本当についてない。


落ち込んでいると、「お疲れっしたー」と、一護も店を出てきた。


「あ………」

一護は、私を見つけるとそのまま入口で立ち止まる。
そのせいで数秒間、見つめ合ってしまった。


やだ、早く帰ればよかった……。
けど、結構降ってるし……これ、やむ予定あるのかな。


「あら、雨降ってるの??ちょっと待ってね、忘れ物の傘があったはずよ」


一護が立ち止まっている事に気づいた店長が、そう言って傘を持ってきてくれる。


「1本しかないけど、2人とも家近いわよね?一護くん、ちゃんと送ってあげなさいよ?椿さんは女の子なんだから。じゃあ、気をつけて帰ってね、お疲れ様」


上品に微笑んで、店長は店へと戻っていく。
それを見送って、ため息をついた。

店長………。
こんな時に限って、傘1本なんて……。

うぅ、やっぱり1人で帰るって言おう。
一護だって、迷惑だろうし……。



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