今日も明日もそばにいて
【土曜の待ち合わせは現地で、時間は11時くらいでどうでしょう?】
【解りました】
【ヒールの高い靴は駄目ですよ?出来たらスニーカーで】
【解りました】
決定事項…って言ってたな、ふふ…一方的にだけど。もしかして、踵の傷のこと、知ってるのかな。ま、その頃には傷も落ち着いて、何でも無くなってるだろうし、問題は無い。ん〜、これはカジュアルな服装でって事かな。
「先輩、はぁ、待ちましたか?」
「ううん。丁度いい感じ」
先に着いていた私を見つけて駆け寄って来た。
まだ11時にはなっていない。
お互い社会人。遅刻は厳禁だ。
時間前集合は身についている。それにしても…走ると何だか余計爽やかね…。
「ちゃんとスニーカーで来てくれましたね」
「あ、だって、神坂君からの指令じゃない」
「…指令って。俺、そんな偉くないですから」
「指令は大袈裟だけど、言われた事は意味がある事でしょうから、守らないとね」
「はい、勿論。では行きますよ」
手を引かれた。えっ?!
「ちょ、ちょっと、神坂君。どうしたの?」
いきなり…手なんて。
「実季先輩、運動不足?」
「え?運動?まあ、しては無い、全然」
あ、もう…ちょっとー…この手。聞いたのに…、はぐらかされた。
「全然ですか。東京タワー、階段で上りますよ?」
「えーっ、ちょっと待って。一体どんだけ高いと思ってるの?階段なんて無理無理、いきなりそんな事」
何段あると思ってるの?凄いあるでしょ?こんな高いんだから。暇してるって言ったから運動しに来たの?だから……、スニーカー指定だったのね。
「何も急いで上がろうなんて言ってないですから。競技じゃないんですから、ゆっくり、ゆっくりですよ。それに、下から天辺まで階段って訳じゃないですから。まずこれで4階に行きましょう。そこからです、階段は」
子供連れの家族やカップルといった、様々な顔ぶれと共に賑やかにエレベーターに乗り込んだ。
「ねえ?私でも大丈夫?何段くらいあるの?時間どのくらいかかる?途中で無理になったら困るんじゃない?」
「ハハ、大丈夫ですって。無理せず休み休みでも、15分もあれば充分登れます。段数は、ん〜600くらいだったかな。
あ、一応、水持って行きましょうか。ちょっと待っててくださいね」
小さいボトルの水を買い、展望台の料金も払った。
トントン。ん?
神坂君を待っていると、腰に近い背中を軽く叩かれた。男の子だ。
「お姉ちゃん、僕も行くんだよ。頑張ろうね」
キョロキョロした。
お姉ちゃん?私、よね?
「あ、うん、そうね、頑張ろうね」
バイバイって手を振って、キラキラした笑顔の男の子は家族と一緒に先に上がって行った。
…うん、よし、私も頑張ろうじゃないの。