今日も明日もそばにいて

「その、海老マヨが食べたいです」

「ん?これですか?もっと早く言ってくれたら良かったのに。これだけになってますが足りますか?」

「うん、一個だけでいいの。いい?」

「どうぞ。一個と言わず、どうぞどうぞ」

「嬉し〜い、有難う!後からになってしまったけど、麻婆豆腐、良かったら食べて?直箸というか、直レンゲはして無いから、その点は大丈夫よ?」

…。

ん?あ、もしかして、人の物は駄目なタイプなのかな…。

「あ、…いや〜。これ、辛く無いですか?」

ん?

「はい?もしかして…辛いもの苦手なの?」

「多少なら大丈夫なんです。麻婆豆腐は四川とかだと、結構、効いてますよね、辛味」

だから…海老チリじゃなく、海老マヨ。納得。
私、坦々麺に麻婆豆腐。どれも辛味がある。あわよくば海老チリも食べたいと思っていた。

「じゃあ、海老マヨと交換って訳にはならないわね。ごめんね、知らなかったとはいえ。
でもそんなに辛く無いよ?これ。試しに食べてみない?」

お皿を寄せた。
辛いか辛くないかは味覚の問題。人によるし、辛くないって言ったところで、神坂君には辛いかも知れない。迂闊な発言だったな〜。

…。

「あ、無理にとは言わないけど」

苦手な辛い物をわざわざ食べる必要はない。

「じゃあ、ちょっと…」

…あ、本当に少しだけ掬って口に運んだ。

「……どう?」

「うん、……旨いです」

「本当?大丈夫?後からくる事もあるけど。無理して無い?大丈夫そう?」

「はい…、うん、この程度なら。大丈夫です。…あ、どうぞ」

またこっちに戻された。…もういいのね。

「ほぅ、良かった。無茶させちゃった、ごめんね。私ね、麻婆豆腐とかは家でもよく作るのよ?まあ、美味しいお店の味には負けちゃうけどね」

「へえ、ご飯はちゃんと作るんですか?」

「…基本はね。でも、一人だし。都合に合わせて色々よ。だって、一人だと、気分って一番重要。疲れた時はお店の惣菜に頼っちゃう」

「…無理はしないって事ですよね」

「そう。まあ、一人だからね」

「あ、そうだ。公園もいいんですよね。ちょっと何か食べたりして。お弁当とかね?今の時期、暑いと思いきや、大きな木の木陰は実は体感は涼しいんですよね。風が吹き抜けると気持ちいいですから。風に吹かれて座っていたり寝転んだりしてると…時間を忘れますよ?」

…。

ちょっと想像してしまった…寝転んでるところ。風が吹き抜ける木陰…眠れそうだ…。あ、どうして公園の話なんて……そもそもなんでこの男と居るんだろう…。確かに…チラッと見ても、ジーッと見つめても、いい男ね。そこは間違いない。男前だと認識はあっても、マジマジと見た事はなかった。お箸を持つ手、綺麗…。
骨格も…綺麗そう。マニアック?つまり内側から整っている。だからバランスがいい。身長も高い。イコール、手足も長い。比率以上に。顔は…、言うまでもない。パーツが綺麗。よくもまあ…こんなに恵まれた…トータルでいい男。
若い頃は、もっと無機質に綺麗だったんだろうな。今は男になってきたって感じなのかな。

「ねえ神坂君、いくつだっけ」

「…え?歳、ですか?実季先輩より3個下です。ずっとね」

確かに。年齢は一生追いつかないモノ。

「じゃあ、…32?」

「そういう事です」

「ねえ、胡麻団子好き?」

…。あ。公園の話はスルー、そして年齢の話からの胡麻団子。…何の脈絡も無い。……流石、女子。頭に浮かんだ事は、即、口に出して話したいらしい。つまり、重要だと思わない人の話はあまり聞いていない。…らしい。ふぅ。

「胡麻団子ですか?好きって程でもないし、胡麻がちょっと厄介ですね」

「そう。胡麻はくせ者よ、くせ者」


で、結局胡麻団子を注文して食べている…美味しそうに。胡麻はくせ者って言うくらいなら、別の物にしないのかな…杏仁とか。それならつるんと食べられるのに。これも女子あるあるの一つだな。なんやかんや文句を言っておいて、でも結局その物を食べる。…よく解らん、…難解だ。
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