今日も明日もそばにいて

「神坂君ごめん、お待たせ」

顔のお直しに少々時間を取られてしまった。ただパタパタするだけなのに…普段は着替えたら顔はそこそこで帰ってる…。
エレベーターを降り、少し小走りで近付きながら声を掛けた。

「いや、待ってたって程じゃ無いです。早かったですね。行きましょうか」

「うん」

会社から出て並んで歩いた。……そう言えば初めてかもしれない、うん、そうよね。

「何だか、ボーっとしちゃってごめんね?今日、本当、駄目な日なのかな」

「え?まあ、そんな日もありますよ。俺なら気にしないでください。居酒屋でいいですよね?二人ですけど」

「ん?あ、うん、そうね…居酒屋さん、もしくは、立ち飲み屋さんがいい」

「あ、ハハ。はい。では、どっちにします?」

「んー、どっちでも」

「じゃあ、立ち飲み屋でいいですか?」

「了解」

どっちでもいいって言いながら、今日は立ち飲み屋さんが良かった、…その方が長居しないで済むと思ったから。だって神坂君と二人でなんて…。初めての事だし、誰かに見られて?…いわれのない嫉みは買いたくないしね。居酒屋でいいって答えず、敢えて選択肢を加えた事で上手く感じ取ってくれたみたいだった。…そこは流石、かな。



「ねぇえ?神坂君、なんで~?」

もつ煮込みをつついてビールを飲んだ。

「え?」

店はほぼ会社帰りのサラリーマンで埋まっていた。

ちょっとぉ…隣のオヤジ…、近いんじゃないの?会社ならセクハラよ、セクハラ。オヤジの顔をツマミに飲んでる訳じゃないんですからね…。ちらっと見た。
あ、こっち、じっと見た。あー、ハハ、どうもー、愛想笑い愛想笑い、しておきましょ。オホホ。…。

ザワザワして少し聞き取りにくかった。向き直ると自然と顔が近くなった。

「なにがです?」

「あ、あのね。急に。今日。何か。相談事とか?」

「あ、はい。…いいえ。相談事……は無いです」

「そうなの?」

ふ~ん…。じゃあ、なに?…気まぐれかしら?
話しながらもつつく箸は止まらない。パクッと口に入れた。

「何でも良かったんです」

「はい?」

何でも?

「実季先輩とご飯というか、飲みたかっただけです」

「そ、そうなの?」

ふ~ん。……。

「はい」

そろそろもつ煮込みもなくりそうだ。

「ねえ?レバニラ炒めと、ゴーヤチャンプル、注文して貰っていい?」

「あ、はい、了解です。生も…、もう一杯いっときます?」

そろそろ飲み切りそうだ。

「うん。流石、気が利く」


料理を愛想よく受け取り、取り敢えずまたパクパク食べ始めた。しっかり食べて、帰ったらシャワーして寝るだけ。

「…あ、ねえ?つまらない事っていうか、つまらないっていうのも違うけど…聞いてもい〜い?」

「いいですよ何でも、どうぞ?」

「王子様……柊一君はね、彼女は居ないの〜?」

あ。不意に向けられた顔にドキッとした…あ…先輩…だいぶ酔ってきたかな…。俺を王子だとか下の名前で呼ぶなんて…ハハ。

「居ませんよ」

「ホントに〜?嘘だ~」

「嘘じゃないです本当ですって。ずっと居ません」

…居る訳ないです。

「え?ずっと?ずっとって……ふ〜ん。そうだ、ねえ?ハプニングは〜?女の人と、ハプニング的な出会いなんて、今まであった〜?」

「ハプニング…?。どんなですか?」

「どんなのでも!」

あ、いやに力はいってるなぁ。

「んー、どこまでのハプニング……、無いですね。あれば何かしら発展してるでしょ?…そしたら、今も現在進行形とかでしょうし…」

「そっかぁ〜。神坂君でも、ハプニングは無いのか…そうか!」

パシッと背中を叩かれた。
ぉ…これは…どうやら酔いが回ったみたいだな…。
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