今日も明日もそばにいて
それでも勇気と度胸、自信の持ち主はどこの会社にも必ず居るものだ。
私が1番と思って疑わない女子。そして、その取り巻き。

その日の帰り、ロッカールームで着替えていると、珍しく後輩から話し掛けられた。いつもダラダラと化粧直しをして話し込み、後から来た私が先に出る時には、お疲れ様でしたと声を掛けるくらいなのに、だ。

「すみません杜咲さん。少し聞いてもいいですか?
神坂さんとは、どういったご関係ですか?」

ほら…来た。いいかどうかの返事は待たない。そんなのは最初から待つつもりもないって問い掛け。…馬鹿丁寧な口調で。こういうのが既に今までなかった違和感よね。余程みんなの王子と会話しているという事が気になったのだろう。我慢の限界?そうよね。
まずやんわりと聞いてきた。来た来た。こんな事を言われたのは初めてだ。

「な~に?関係も何も。何も無いわよ?」

こういうのは躊躇せずに直ぐ返すのが鉄則。

「本当ですか?」

…何も無いわよ。関係って聞かれても。

「本当よ?私相手に何かある訳無いでしょ?貴女達みたいな若くて可愛い子が一杯居るんだから。あー、最近の会話を気にしているの?それなら、ただの挨拶程度の会話をしてるだけよ?」

「本当ですか?あー、良かった…。ただの何でも無い会話なんですね。何だか親しげだったからすみません、変な事聞いて」

「大丈夫よ?」

親しげ……変な事、ね…。私と神坂君が親しかったらそれだけでも悪いのかって。まあ言いたい事は解るわ、不釣り合いだって、言いたいのよね?そこでしょ?…念押しみたいに…。

「あ、では、お先にです、お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」

散るように帰った。……珍しい、先に出るなんて。…はぁ、…。何…もう。
……はぁ。案外、思ったより恐いモノね、人に囲まれるって…。ロッカールームはある意味密室だし…。私に対してこの程度の圧なら、若い子同士ならもっと恐いのか…。
口には出さないけど、目に見えないモノが垣間見えるようで、恐い恐い。はぁ…会社って、なんだろうね。
まあ、人それぞれ、勤務目的は微妙に違うって事かな。
あー、神坂君に言いたい。直ぐ言いたい。誤解されて恐い目に遭いそうになったって。ちょっと大袈裟?でも、もしそうなら、実際、恐い目に遭うって事でしょ?なら、やっぱり先手を打っておかないと。
…ん?…そうなる?先手?…ま、あった事はメールで言っておこう。…えっ、と…。

【今日、神坂君との事、誤解されて、ロッカールームで女子に囲まれて、ちょっと恐かったんですからね! 杜咲】

こんな感じで……えい!
これで神坂君だってよく解らない事はもうして来ないでしょ。
あ、公園に行くんだったか…。それ、どうしよう。

メールの返事は来なかった。
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