今日も明日もそばにいて
④受け入れてみる。
月曜は朝から欠伸ばかりだった。噛み殺すから涙目になる。

…眠れなかった。眠れる訳が無い。……あんなこと。何度も思い出した、思い返した。
触れた唇が気になった。ドキドキして…頭が冴えて、寝返りばかり打った。…身体に残っていた。抱きしめられた強さを思い出した。身体なんて…大袈裟。腕よ、腕。締め付けられた部分は腕。
仰向けになれば天井も眺め続けた。何度もネックレス、摘んだ、…見た。
神坂君につけられたネックレス、そのままで来てしまった。

「おはようございます」

あっ、ゔ。不意討ち過ぎる。

「…おはよう」

「目の下、クマですか?」

「…えっ?ぇえ゙っ!!」

慌てて顔に両手を当てた。そんなに酷いの?化粧のりが悪くて誤魔化せてない?

「ハハハ、嘘ですよ。そんなのはありません。でも…眠れなかったんですね…」

…この男……欠伸するところを見てたのね…本当にもう…。解ってて…絶対わざとだ。悩ませているのは誰だと思っているのよ…。からかってるの?だとしたら…悪い男だ。
…ん?何だか、不穏な空気が…。…いやいや、これは…。かつて無い程のダークな雰囲気…。

「ちょっと…、神坂君」

「はい?」

もう既に小声だ。私も年輩のくせに随分と気弱だな。何も無いならコソコソ話さなくていいのに。これでは逆効果だよ。

「どうかしましたか?」

…どうかってね。…呑気な。

「…あのね、迂闊な会話はしないの。見て?女子が聞き耳を立ててるから。目のクマはいいとして、…よく無いけど。眠れなかったとか、そういう…、なんて言うか、勝手に想像されて、誤解を生みそうな言葉は気をつけて欲しいの。私とでは有り得ないけど」

…。

「はい、解りました」

…え?何?今の…冷たい顔…。…まあ、いい。…はぁ……これでいいのよ。そうでなくても、最近、朝、声を掛けてくるようになって…。近くに来るもんだから。それから妙に女子社員が、善くも悪くもざわついていたんだから。私だから言って来ないくらいのものだ。同年齢の社員同士なら、ちょっとって、とうに呼び出されて、数人に囲まれてるに違いない。
それほど、自称、彼女は居ないという男は、みんなに狙われているのだ。…触らぬ神に祟り無し、よ。
だから、こっちにも触って来ないで。
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