今日も明日もそばにいて
⑦心配は、現実になり

「え?柊一?柊一でしょ?」

それは会社を出ていきなりの事だった。

「お、おお、海和(みわ)か…」

…青天の霹靂。まさにそれだった。

「うん!凄~い、久し振り〜。ねえ元気だった?今、帰り?ねえ、ちょっと時間無い?折角、出会ったんだし、これも縁のうちよね?ね?ね、ちょっと、つき合って?いいでしょ?」

…相変わらずだな。なんで会うかな…。はぁ…全く。

「お洒落なバーがあるの。行こう?」

腕を絡めてきてグイグイ引っ張る。…はぁ。

「解った。解ったから…。会社の前だ。そんなにくっつくな。取り敢えず離してくれないか」

こんなところで、こんな事…はぁ…誤解を招く元だ。

「あー、久し振りなのに、相変わらず冷たいのねぇ。ちょっと腕組むくらいいいじゃない。昔のよしみで」

…はぁ、もう…。何が昔のよしみだ。俺も人を見る目が無かったというか…。若気の至り、か。
あの頃、積極的に押してくるから、面倒臭くて全く構わず放っておいた。その結果が今でもこんな……それにしても…、はぁ…、昔と全く変わってないんだな。相手の都合とか考えない…。

「もう学生じゃないんだ、少しは落ち着いたらどうだ。…相変わらずだな」

学生だって、ちゃんとしなくていい訳ではない…。

「これでいいっていう人が居るから、別にいいの〜」

腕を掴んで揺らす。…あ゙ー、もう…。

「だったらそいつのとこに行けよ、俺を誘うな」

「あっちはあっち。柊一は柊一よ?柊一こそ、相変わらずいい男じゃん、やっぱりカッコイイ~。フフ」

…何が、じゃん、だ。いくつになったんだよ…。はぁぁ、志野田~、…居ないかな。
建物の方をキョロキョロ探してみた。あ、居た居た。出て来てる。

「お〜い、志野田〜」

フッ。あいつ、見た見た。おぉ!と手を挙げて駆け寄って来た。

「なんだ?こんなところで…いいのか?おい…あー、ん゙ん゙。えー、俺はこいつと同期で、あ、知ってくれてますよね……おぁあ゙?あ゙あ゙?!」

途端、ギョッとした…まあ、驚くわな。予想と違った相手…一緒に居たのが海和だと気がついた。そうなんだよ…志野田。助けてくれ。


「おい神坂…。どうしたんだよぉ…。お前の影でよく見えなかったから、俺はてっきり…例の、紹介でもしてくれるのかと思って…」

顔を寄せて小声だ。海和の方をこっそり指す。

「あぁ、俺も驚いた。全くの偶然だ。丁度通り掛かったんだろ。出て来たらいきなり捕まった。こんなの出合い頭のもらい事故だ。…何とかしてくれ」

「何とかって…。お前もだけど、俺も振り回された口じゃないか。俺も嫌だよ…」

「…だよな〜。なんで今更会うかねー…」

「ちょっと、何二人でゴニョゴニョ…あ、ちょっと待って!」

海和は携帯に誰かから連絡が来たようだった。お陰で離れてくれた。

「どうすんだ?」

「どうもこうも…」

電話が終わったようだ。

「ごめん柊一…、勝哉が探してるから行くね?じゃあね。あっ、え?志野田さん?志野田さんよね!え、変わった?髪型?え、やっぱ変わってない~。凄〜い、私、今日、持ってるぅ!あ、時間無い、またね〜」

…。

「何じゃあれ。なあ…、勝哉って誰だ?」

「知らん」

「フ。まあ、良かったじゃないか、つき合わされなくてさ。しかし…、フリフリというか…、髪もクルクルさせてさ…。あいつはいつまでも、時間、止まってんのかね…」

志野田が顔の横で指を立て、クルクルさせて髪型を真似た。

「…かもな。何にせよ、誘われずに済んで良かった。あ、お前、今日、梨香とデートか?」

「いいや、無い」

「じゃあ、ちょっとつき合ってくれ」

「ぁあ?…今度はお前が誘うのか?ま、それはいいんだけど。じゃあ行くか。あ、もしかして」

「あ?、違う、悪いな」

「な~んだ。まあ、いいや」
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