今日も明日もそばにいて

「おい、神坂。早速噂になってるぞ」

「…朝から何だよ。…くっつくな…」

近い顔を掌で押し返した。

「あ、ぷ、邪険にすんなって。まあ聞け。昨日の海和の事だな、多分。あいつ派手っつうか、目立つからなぁ。お前と親しげに腕なんか絡めてたって、もう、ピーチクパーチク、大変だぞ?あいつが噂の彼女になってんぞ?」

「そうか」

「そうかって…まあ、ほっときゃいいけどさ。確認してくるような度胸のある子なんか居ないだろうから。
それより、あっちは大丈夫なのか?」

「ああ」

多分。実季さんなら、こんな噂、きっと大丈夫だ。しかし…どうでもいいけど参ったな…。よりによって海和と噂なんて…。はぁ、鬱陶しい噂だ。
あいつ、またフラフラ現れなきゃいいけど。俺の会社の場所を知ってしまった訳だし。現れないとも限らない。

ちょっと悪い、と声を掛けて席を外した。


【朝からの噂は何でも無いです。学生の時の友人の事です。志野田も一緒に居ました。 神坂】

心配事は早目に排除しないとな。何でも無い事で誤解させて悩ませてはいけない。

【大丈夫です。友人ですよね】

…俺は嘘つきか…正確には友人か?…それとは違うよな。元々がただの後輩、今となっては知り合いだったという事なんだけどな。あったのは、向こうの一方的な思いだ。それだけだ。全く関係は無いからいいだろう。メールで説明しようとしたらそれこそ誤解の元だ。会った時に詳しく話した方がいい。



「あの〜すみませ〜ん。このビルから出て来たから、ここの会社の社員の方ですよね?」

「は、い…、そうですが。誰かお尋ねですか?」

良かった。話が早い。それに親切そうな人だ。

「はい!そうなんですよ。でも詳しい事は解らなくて…。多分、ここの会社の営業だとは思うんですけど、神坂柊一っていう人、知りませんか?あの、背が高くて、凄くイケメンなんです。知ってたら絶対解ると思います、格好よくて目立つから。知りませんか?」

「あ、ごめんなさい。はっきり解らないのでしたら、個人情報に関わりますので、返答はできません。堅い事を言ってごめんなさい、失礼します」

あ…。あ〜ん、もう…。優しそうな綺麗な人だと思ったんだけど、駄目だったか…。
でも流石ね、柊一の勤めてる会社。きちんとした会社って事ね。もう。こんな事なら、昨日慌ててても、連絡先くらい聞いておけば良かった。
…柊一。やっぱり柊一がいい。勝哉なんか、つまんない。都合よくくっついて回るだけで…。私の事なんて…。はぁ。
昨日会えたなんて、きっと私達は運命に導かれたんだわ。あー、もう少し待ってみようかなぁ。



…冷たかったかな。約束してるのだったら可哀相だったけど。誰の事だって勝手には教えられないもの…。

【会社の出たところで可愛らしい女性が神坂君を探していました。ごめんなさい。勝手には教えない方がいいと思って、貴方の事、聞かれたけど、何も教え無かったの。解るなら直ぐ連絡してあげてね。 杜咲】

…これでいい。あの女性が多分、今朝から女子社員の間で噂になってる人。神坂君が友人だと言った女性…。
小猫のような、大きな目の可愛らしい女性だった。自分に自信がある…そんな生き生きした表情をしていた。あの女性の様子だと、きっと、友人ってだけじゃない気がする。…好意があるって感じ。神坂君と同い年か後輩くらいの年齢かな…。当たり前だけど私よりは若い…。
…当たり前。
< 55 / 100 >

この作品をシェア

pagetop