今日も明日もそばにいて
「もう!怪しくなんか無いの!知り合いが居るから待ってるだけ。
ちょっとぉ、触らないでよね」
…海和、来てるな。
「あ、柊一!ほらね?言ったでしょ?ちゃんと知り合いが居るんだから」
「海和、時間あるか?」
「あるある。待ってたんだから柊一の事。そしたら、この人が、用が無いなら帰りなさいって不審者扱いするの」
「…すみません」
俺を認識して警備員が謝る。
「いや、いいんです。非常識で迷惑をかけているのはこちらですから。すみませんでした。
海和、お前、仕事は?してないのか?」
「別に。パパが無理にしなくていいって言うから」
無理にね…。パパね…。コネで入ったとしても雇う側が敬遠するんだろう。…仕事以前の問題だ。まず社会人としての常識からだ。就職して仕事なんて、今のままでは無理な話だろうな。
「近くの店に行くから」
「お店?誘ってくれるの?あ、ねえ、じゃあこの前言ってたバーに行こう?いいでしょ?」
「そんなんじゃない。酒は無しだ。話がある」
「えー、私もあるのよ?凄いよね、今日も偶然会えるなんて」
…会社の前で早くから待ってて、偶然会えたなんて…、そんな言い方があるか。会うに決まってる。……はぁぁ、もう…話す前から嫌になってくるな…。
「とにかく行くぞ」
「えー、ここ?お洒落じゃない〜」
「いいから、静かにしてくれ」
口を閉じるとか、出来ないのか…。
…何でも考えずに直ぐ言葉にするのも相変わらずか…。
連れて来たのは居酒屋だ。煩いから丁度いい。一番奥の個室に入った。適当に注文を入れた。
「えー、勝手に注文終わらせるなんて酷い」
店に文句があるのに、料理は選びたいとか…そこ、もうどうでもいいだろ…。
「あれこれ迷ってメニューを決めてる場合じゃない。ご飯をメインに入った訳じゃないんだ。話があると言っただろ?海和、頼むから、今からする話、ちゃんと聞いてくれ。
いいか、元々、俺達はつき合ってなんかいなかった。それは解ってるよな?
海和は俺らの行く先々について回っていたけど、それは海和が勝手にしていた事だ。気持ちを知っていて、有耶無耶なままだった俺も悪かったと思ってる。それは謝る。申し訳なかった。今更だと思うかも知れないが、あの頃も今も、俺は、海和の事は何とも思っていない。だから、今も、会社で待たれても困るんだ。言ってる事は解るよな?大人だから」
「…解るよ?海和も話があるの。今から改めてでいいから私と付き合おうよ、ね?私、柊一がいいの。柊一じゃ無いと嫌なの。よく解ったの」
…今、解るって言っただろ?だったら、これからも無い、この告白は迷惑だって解るだろ?
「断る。だから、もう、俺には関わらないでくれ。酷な言い方かも知れないけれど、好きでも何でもないんだ。そう言っただろ?勝哉君とかいう彼氏、居るんだろ?何故大事にしない…」
「勝哉は…私のお金目当てみたいな奴だもの…」
「はぁ…。だったら別れろそんな奴。なんでそんな男と解っていてつき合ってる。そんなつき合い、楽しくも何とも無いだろ?」
「誰も居なくなる…」
…そこか。
「いいか?だからって、好きでも何でもないのにズルズルつき合うのは良くないと思わないか?その彼の為にも別れた方がいい。俺には関係ないけど。説教臭い事を言うけど…、自分の事をちゃんと見てくれてる人とつき合うんだ。家柄でも親でも、金でも無い、海和をちゃんと好きになってくれる男だ。解るよな?」
「柊一…。柊一は駄目なの?…」
海和…。
「俺は駄目だ。断ると言っただろ?」
「…つまんない。柊一がいいのに。柊一なら海和の事解ってくれるのに」
「お断りだ。これ以上、言わせないでくれ。…海和、いい加減ちゃんとしろよ、な?」
「…解ってる。解ってるよ駄目だって。昔からずっと解ってたから…。それでも柊一が好きだったから…。馬鹿だけど、迷惑がられてるのも解ってた…。でも…もう来ないわ。これでいい?安心した?
私、帰る」
…。
「元気でな?」
「……うん、…有り難…」
…はぁ。