今日も明日もそばにいて
駅には私が先に着いたようだった。フフ。どうやら、気が逸ってたみたい。…はぁ。
あ、神坂君。遠くからだって解る。ワックスで少し流した髪。今日は深いネイビーのスーツだった。クールビズとはいえ、ネクタイはしている。ブルー系のチェックのネクタイ。全体に涼しげで、何より爽やかだ。…暑苦しさを感じない。清涼感さえ漂う。
30を超えてもこの爽やかさなんだもの。女子社員に王子って言われる訳よね…。んー、それが私にはちょっと…辛くもある訳だけど…。ううん。今日はそんなつまんなくなる事は考えちゃ駄目よ。デートなんだから。
気がついたみたい。あ、少し手をあげた。小走りになった。フフ、走らなくていいのに。汗かいちゃうから。
軽く、目立たないように振り返した。私も歩み寄ろうと足を踏み出そうとした。
……え?あ、…。誰かに、…捕まった。呼び止められてる…確か、あの子は……隣の課の女の子…。
何か話してる?こっち見た?あ、ボーッと見てる場合じゃなかった。身体を捻り背を向けた。見てるの見られたかな…はぁ、ドキドキした。
人の陰になりそうな場所へ慌てて移動して様子を窺った。神坂君が体の向きを変えていた。…あ、多分、私を見えなくするようにあの子の視線を遮ったんだ。
…私、どうしよう。あの子、きっと、週末だし、神坂君が仕事が終わるのをずっと待っていたのね。後を追い掛けるようにしてついて来たのかしら。…やっぱり告白する為、よね。話はすぐ終わるのかしら。それとも…分け隔てなく、前のようにまたご飯に行く事になるのかしら…。
だとしたら、私はどうしたら…。今日のご飯は無し?一旦、帰った方がいいかな。用があるって、早く切り上げてくれるだろうか。
今から行くお店の場所だって聞いて無かったから、先に行っておく事も出来ない。
立ちっぱなしで居続けているのも、あの子がもしまたこっちを見たら…、私に気づいたら不自然に思うよね。着替えてちょっと綺麗にしてるし…まさに誰かと待ち合わせでもしてるんだって、思われてしまいそうだもの。それが神坂君と思うかどうかは…解からないか…。
んー、やっぱり一旦帰ろうかな…。それで連絡を待つとか…。最悪、今日は無しって事にもなるのかな…。
「杜咲、さ、ん?え?杜咲さん?」
「え?あ、志野田君…」
「あ~、やっぱり。えっと、あれ?どうしたんです?神坂は?神坂と待ち合わせじゃ?あいつ、とっくに会社出たはずなんですよ?」
「うん…あそこに…居るの」
バッグで隠して居る方を指した。
「えっ?……あ~、なるほど。捕獲されてるのか。あ゛、すみません」
「…みたいなの。あ、いいのいいの。だからどうしようかって…」
…ぅお。これって。俺にとってのチャンス到来。ここは俺の出番だよな。これって、いいんだよな?
「杜咲さん、デートですよデート。俺と。さあ、行きましょう」
腕を掴んだ。
「え?」
「とにかく、近くの、…あ、あそこ、取り敢えずあそこに入りましょう。説明は後で。手、繋ぎますよ?」
手を取った。握った。……役得だな、ふぅ。
「え?は、はい、はい。…え?志野田君?」
身体は反転した。手を繋ぎ、引かれ、さあこっちですよと、近くのカフェに連れ込まれた。