ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
そう言う割には行動に移そうとしない。


「勿体ぶってないでエンジンかければ?」


じっとして待った。
でも、羅門という男はエンジンをかけることもせず、ぼぅっと前を向いている。


「出ないの?」

「うん、少し待て」


シートベルトから手を離し、背もたれを倒して寛ぎモードに入る。


「ちょっと…!」


私には用があると言ってるのに。



「……なぁ、あんた、聖…」


ドキンと胸の鳴る音がした。


「な、何よ」


さんくらいつけて呼んでよ。
いきなり呼び捨てにするから狼狽えたじゃない。


「さっき店で言ってたろう?俺にはわからないって」


チラッと視線が向けられた。
他人に彼を奪われた辛さはわからない…と、この男に言ってやりたかったんだ。


「それ、何のことだよ」


身体ごと助手席側に向いて聞く。
右の耳にしているイヤーカフがチェーンと一緒に光った。


「なぁ」


一重の眼差しが真剣に見ている。
尖ったアゴの辺りを確認しながら、ゴクン…と唾を飲み込んだ。


「私が大学三年生の時、付き合ってた彼を元カノに奪われたの。付き合いだした時には『あいつとはもう絶対にヨリを戻したりしない』と言ってたはずだったのに」


私の知らないところで何があったのかは聞かされなかった。
ただ、彼女が泣きながら謝ったんだ。


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