テレビの向こうの君に愛を叫ぶ

気付いた時には、私は澪君に包みこまれていた。
澪君の匂いが胸いっぱいに満ち溢れる。
私は目を閉じて、されるがままにしていた。


次にいつ会えるんだろう。


そう思うと、帰りたくない気持ちは私だって同じ。
いつまでも澪君の隣でこうしていたい。


澪君は私を解放すると、私の髪をくしゃっと撫でて、にっこりと微笑んだ。


「充電させてもらった」


いたずらっ子のような顔で「すぐ電池切れしちゃうけど」と続けて、舌をペロリと出す。


可愛い。
可愛過ぎて罪だよ、澪君。


「またすぐ会える?」


「すぐ会いに行くよ」


「仕事サボっちゃだめだよ」


「俺そんなに怠け者じゃなーい」


他愛のない会話の中にある小さな幸せを噛みしめる。

2人でくすくすと笑いあって、それから私は「じゃあ、行くね」と言って車のドアに手をかけた。

ばいばいと振った澪君の手に応えるように、私も手を振る。

重たいカバンを抱えてすり抜けるようにして車を降りた。


「またね」
「またね」


2人の声が重なる。
車のドアが閉まると、さっきまで振られていた澪君の左手は、しょんぼりと下がってしまった。

私は名残惜しい気持ちを懸命に堪えながら、駅のホームへと向かって歩く。

建物に入る前にそっと後ろを振り向くと、まだ澪君の車があった。
私は小さく手を振るとまた前を向く。


見えたかな?気付いたかな?


駅のホームで携帯を開くと、そこには「可愛い。またね」というメッセージと、手を振る可愛い猫のスタンプが送られてきていた。

私は思わず顔を綻ばせる。


「幸せ」


私は自分にしか聞こえないような小さな声で呟いた。
そうすればこの幸せが逃げないような気がしたんだ。


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