溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「西尾光希さん?」
街灯に照らされたのは、今風の格好をした若い男の子だった。
弟と同じ年くらいだろうか。
赤く染められた髪が暗闇に浮かぶ炎のようで、通行人の視線を引き付ける。くちゃくちゃとガムを噛んで両手はポケットに突っ込んだまま。あまり雰囲気がいいとはいえない。
肯定も否定もせずに黙っていると、彼は通りの向こうを指さした。
「話があるから、そこの店に来てくれる?」
「話?」
それよりあなたは何者なの、と口にする前に、彼は面倒そうに眉根を寄せる。
「瀬戸生吹の件で」
独特のリズムで鼻歌を歌いながら、赤い髪の青年は歩道を進んでいく。少し距離を置きながら、私は彼に続いた。
いくら年下とはいえ相手は見ず知らずの男だ。普段なら黙って従うなんてありえないけれど、瀬戸くんの名前を出されては行かないわけにはいかない。
車に乗れと言われたり、人通りのない場所に入っていこうとしたら、逃げよう。そう決めて歩いていると、彼はカフェの前で足を止めた。
すいっと指さされた先にはテラス席が並んでいる。暖色系の照明に照らされたその真ん中に、ビビッドオレンジのワンピースをまとった小柄な女の子が座っていた。