溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
あっと思う。焦げ茶色の長い髪が、波打ちながら背中に流れている。
つまらなさそうに頬杖をついていた彼女が、顔を上げた。目が合うと、眩しいものを見るように目を細める。
「西尾光希さんね?」
厚めの前髪はまっすぐ切りそろえられていた。個性的な髪型だけど、それがよく似合う彫りの深い顔立ちをしている。ほんの少しつり上がった目で、正面の椅子を示した。
「どうぞお座りになって」
軽い違和感をおぼえながら、私は静かに腰を下ろした。彼女は薄く笑い、不自然なほど丁寧な口調で言う。
「何か飲まれるかしら?」
テーブルの上には紅茶らしき飲み物が入ったマグカップが置かれている。この店に何度も来たことがある私でも頼んだことのない、特大サイズのものだ。
「いいえ結構です。あの、あなたは……?」
そう口にして、違和感の正体に気づいた。目の前の彼女はどう見ても二十歳そこそこなのに、言葉遣いが対等というか、それ以上なのだ。ずいぶん高いところから見下ろされている気がする。
「あら失礼。私、篠宮瑠璃と申します」
聞き覚えのある名前に、思わず彼女を見返す。
「瀬戸くんの幼なじみの」
「あら、ご存知だったのね」