溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
ふわりと表情を崩し、彼女は赤い髪の青年に目配せをした。彼はうなずいてカフェ店内に消えていく。夕飯時のせいか、カフェには空席が目立っていた。
乾いた風が吹き、瑠璃さんの長い髪を柔らかに揺らす。昼間は暑かったけれど、陽が落ちて過ごしやすい気温になっていた。虫の声が聞こえるテラス席は、秋の気配に包まれている。
「それで、お話というのは……」
彼女の持つ雰囲気のせいか、つい敬語になってしまった。瑠璃さんは他人を寄せ付けない尖ったオーラをまとっている。顔全体では微笑んでいるのに、目だけは笑っていない。瀬戸くんの弟の大樹くんと同じ笑い方だと思った。
「単刀直入に申し上げますわ」
厚みのあるつややかな唇が、オレンジ色の照明を反射する。
「生吹と別れてちょうだい」
にこりと笑いながら、彼女は言った。まるでそうすることが当然であるような口調だ。
「ええと……あなたが婚約者候補だとは聞いているけど」
頭がぐらぐらする。でも気持ちは妙に落ち着いていた。小さい子からおもちゃを返してと言われた気分だ。
「失礼ですが、瑠璃さんはおいくつなんですか」
「二十二だけど、何?」
ちょっと驚いてしまった。口調の割に態度が子どもっぽくて、もしかすると成人もしていないかと思った。
まじまじと見ている私に、彼女は不機嫌そうに眉をひそめる。