溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「なんなの? 失礼な方ね」
「すみません……」
赤い髪の青年が店から出てきて、マグカップを私の前に置いた。紅茶が入っているらしいそれはやっぱり最大サイズだ。
カップがふたつ載った丸テーブルをちらりと見て、彼女は尊大に言った。
「いいわ、何も知らないあなたに、特別に教えてあげる」
お嬢様という人種ははじめて見たけれど、みんなこうなのだろうか。
人の話を聞かないというか、自分が特別な人間だと疑わないというか。そういえば、瀬戸くんのお母さんにもそれに通じるところがあった。
それからふいに納得した。
そうか。彼女たちが失礼な人間なのではなく、たんに私が見下されているだけなのだ。
それはある意味では当然のことなのかもしれない。なにせ住んでいる世界が違い過ぎる。
「巨大企業のシノミヤはご存知でしょう? 私は篠宮グループの社長、篠宮正太郎の孫なの。ついでに父は政治家で進和党の初代代表、篠宮秋生よ」
ご存知よね、というように小柄な身体を精一杯伸ばして私を見下ろす。
なんだか凪いだ気持ちだった。虎の威を借る狐ちゃんをじっくり見つめる。あ、この場合は狐ではなく一応虎の子なのか。
ハーフ顔に切りそろえた前髪という、主張の効いた格好をしている彼女には、前衛的なビビッドカラーのワンピースがよく似合っていた。