溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
夕飯は佃煮や煮物の残りなど、冷蔵庫に入っている余り物で適当に済ませることにした。
缶ビールに手を伸ばし、思い直して冷凍庫から一食分ずつ分けて保存しておいたご飯を取り出す。瀬戸くんがまだ仕事をしているのだと思うと、ひとりで先に飲むのも気が引けた。
携帯の動画サイトで音楽を流しながら夕飯を済ませ洗い物をしていると、ピンポンと呼び出し音が鳴った。
時刻は午後の八時半すぎだ。
「あれ、意外と早い」
合鍵は渡してあるはずだけど、使うのを遠慮したのだろうか。
てっきり彼だと思い、私はキッチンからすぐの玄関ドアを開く。
「瀬戸くん、おかえり――」
「こんばんは、光希さん」
立っていたのは、瀬戸くんだけど瀬戸くんではなかった。
長身のその人は、細い体にゆったりとしたTシャツとロングカーディガンを合わせ、ニット帽を目深に被っている。
「あぶないよ、開ける前にちゃんと誰が来たのか確認しないと」
ほんの少し掠れたような甘い声は、お兄さんとよく似ている。
「大樹さん? あれ、エントランスのオートロックは、どうやって」
「ちょうど宅配便の人が出てきたから、住人を装ってくぐった」
帽子に隠れて目がよく見えないけれど、口元だけ笑っている。消える直前の三日月みたいな、薄い笑い方だ。