溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「というか、どうしてここが」

「いろいろ調べさせてもらったからね」

私の顔色を見て、彼は「勘違いしないでほしいな」と続ける。

「調べさせたのは俺じゃなくて母親だから。俺は伝言を伝えに来ただけ」
 
ドアレバーを握る手に力が入った。彼らの母親である杏子さんの、隙のない視線が脳裏をよぎる。
 
ダメだと反対しながら、彼女は一応私の身元調査をしたらしい。
 
結婚前に、興信所などを使って相手の家族や資産や、その他のあらゆることについて調べる。話には聞いたことがあったけど、自分がやられるとは思ってもみなかった。

「ということで、入れてくれる?」
 
ちらりと奥を覗き込まれて、私はドアを開けた。杏子さんからの使者を、玄関先で追い返すわけにはいかない。

「狭いですけど、どうぞ」
 
大樹くんは靴を脱ぎ、物珍しそうに周囲を見回しながらリビングまで来ると、当然のようにソファクッションに腰を下ろした。

「コーヒーでいいですか? インスタントしかないですけど」

「俺、人んちで出されたものってあんまり口に入れないタイプだから」

「そうですか」
 
私はコンロの火を消した。潔癖症なのか、それとも警戒心が強いのか。考えが透けて見えるタイプだった瑠璃さんと違って、大樹くんは何を考えているのかわかりづらい。

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