溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「じゃあビールは?」
「はは、面白いね光希さん」
冷やしてあったビールの缶と未開封のミックスナッツの袋をリビングに持っていき、彼の目の前で開封して皿にあけた。
「いただくよ」
大樹くんはニット帽を外して、缶ビールのプルトップを開けた。
肩につきそうな髪は今日は結んでいない。ぱっと見、資産家の息子というよりロックバンドのボーカルといった風貌だ。ギターケースを担いで街中を歩けば様になりそうだった。
「兄貴は?」
「まだ仕事中です」
「へえ、相変わらず働いてんだ」
嘲るような笑みを浮かべ、大樹くんは缶ビールに口をつける。
「ほんと、要領悪いよな」
「瀬戸くんは、要領いいですよ。ほかの人の倍以上の仕事を効率よくこなしてるし……」
でもそうやって仕事ができるからこそ、どんどん案件を任されて忙しくなっているのも事実だ。うまく息抜きができないという点では、不器用かもしれない。
「そういうことじゃなくてさ、生き方の話」
後ろに手をついて、大樹くんは前髪をぐしゃっとかきあげる。覗いた目は切れ長の二重で、美しいけれど鋭い印象を持つ杏子さんの目にそっくりだ。
「親の言うことになんて適当に従っとけば、好きなように生きられるし、将来だって安泰なのにさ」
「大樹さんは好きなように生きてるんですか?」