溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「そろそろ本題に入らないとね」
ビールを飲み干して、空き缶をテーブルに置く。かつん、と乾いた音がした。
「えーと、父親は西尾和明。市役所に勤める地方公務員で、母親の百合子は高校の非常勤講師を経て現在はパート勤務。弟は体育大学の二年で柔道部のホープ、妹は地元の県立高校に通う受験生」
淡々とした口調で言われ、私は固まった。
家族、親戚、出身地。大樹くんが読み上げているのは、私の調査資料らしい。きっと家族関係以外のことも、いろいろと調べられているのだろう。
そう思っていると、大樹さんが少し驚いたように眉を上げた。
「病気とか怪我の欄は驚くほどクリーンだ」
「……うちは、一家揃って丈夫なので」
「そうなんだ。たしかに祖父君も祖母君も元気みたいだし……。へえ、ひいじいさんにひいばあさんまで健在なのか」
興味深そうに資料に目を落とした大樹くんは「けど地方の農家だ」と困ったように笑った。
「てことで西尾光希さん。あんたの家柄が悪いとは言わないけど、瀬戸家の嫁としてはふさわしくないから生吹と別れてくれ、だってさ。はは、ひどいねコレ。うちだって大した家柄でもないのにさ」
彼は持っていた紙をひらひら揺らしたあと、ぐしゃっと丸めた。
「以上が、母親からの伝言ね」
含みを持たせるように言い、立ち上がった。ローテーブルを回り込み、私の正面に立つ。切れ長の目に見下ろされて、私は息を呑んだ。