溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「ちょ、ちょっとまって。脱ぐって……」

「もちろんヌードモデルね。ありのままの肉体と、そこから放たれる人間性みたいなものを描きたいから」
 
髪に触られそうになって、私はさらに身体を引いた。両手をついて距離を詰めてくる彼は、やっぱり笑っているようで笑っていない。

背中がぞくりと震えた。切れ長の大きな目は、黒目が小さくてどことなく蛇を思わせる。

「これまで従順に従ってきたおかげか、母は俺の言葉にはわりと耳を貸すから、うまい具合に説得できると思うんだけどな」

「本当に?」
 
大樹くんがにっと笑みを広げる。

「兄貴はやり方が下手なんだよ。正面からぶつかっても、あの母親が折れるわけないのにさ。だから――」
 
彼の手が、私のひざに触れる。そのとき、玄関のドアが音を立てた。
 
室内の空気が揺れて、ほんの少し疲れ気味のかすれた声が聞こえる。

「ただいま――」
 
一瞬の沈黙のあと、バタバタと音がして瀬戸くんが転がるようにリビングに飛び込んできた。

「大樹! 何やってんだお前!」
 
弟の襟首をつかみ、私から引きはがすように投げ飛ばす。普段の甘くて穏やかな顔からは想像もつかない険しい表情に、私は驚いた。

「おかえり兄貴」
 
後頭部をさすりながらへらっと笑って、大樹くんは右手を開いてみせる。

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