溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「散らばったナッツを集めてたんだよ。ほら」
 
いつのまに用意していたのか、彼の右手にはピーナッツやらアーモンドやらカシューナッツやらが握られていた。瀬戸くんはどこか腑に落ちないといった顔で弟を見下ろす。

「何しに来たんだ」

「母さんからの伝言をもってきただけだって」

「伝言?」

「詳しいことは光希さんに聞いて。じゃ、俺は帰るよ」
 
握っていたナッツをゴミ箱に放り、大樹くんはリビングを出て行く。見送る暇も与えずに、さっさと玄関を出て行ってしまった。

閉じたドアに鍵をかけ、瀬戸くんは大きく息をつく。

「おかえり瀬戸くん。夕飯は?」

「済ませてきたから。ていうか光希、俺がいないあいだに男を部屋に入れるなよ」
 
私の正面に座り込み、彼はまっすぐ視線を合わせてくる。

甘やかな二重の瞳に、ほっと身体が緩んだ。父親似と母親似なのか、兄弟なのにふたりの印象は真逆だ。

「ごめん、弟さんだったから。あとお母さんから伝言があるって言われたら、上げないわけにはいかないかと思って」

「まあ、そうかもしれないけど……」
 
ジャケットを脱いでネクタイを緩めながら、瀬戸くんはもう一度ため息をつく。大樹くんが残していった不穏な気配が、その兄の存在によって散らされていくみたいだ。

< 119 / 205 >

この作品をシェア

pagetop