溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「散らばったナッツを集めてたんだよ。ほら」
いつのまに用意していたのか、彼の右手にはピーナッツやらアーモンドやらカシューナッツやらが握られていた。瀬戸くんはどこか腑に落ちないといった顔で弟を見下ろす。
「何しに来たんだ」
「母さんからの伝言をもってきただけだって」
「伝言?」
「詳しいことは光希さんに聞いて。じゃ、俺は帰るよ」
握っていたナッツをゴミ箱に放り、大樹くんはリビングを出て行く。見送る暇も与えずに、さっさと玄関を出て行ってしまった。
閉じたドアに鍵をかけ、瀬戸くんは大きく息をつく。
「おかえり瀬戸くん。夕飯は?」
「済ませてきたから。ていうか光希、俺がいないあいだに男を部屋に入れるなよ」
私の正面に座り込み、彼はまっすぐ視線を合わせてくる。
甘やかな二重の瞳に、ほっと身体が緩んだ。父親似と母親似なのか、兄弟なのにふたりの印象は真逆だ。
「ごめん、弟さんだったから。あとお母さんから伝言があるって言われたら、上げないわけにはいかないかと思って」
「まあ、そうかもしれないけど……」
ジャケットを脱いでネクタイを緩めながら、瀬戸くんはもう一度ため息をつく。大樹くんが残していった不穏な気配が、その兄の存在によって散らされていくみたいだ。