溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


「わかりました。生吹……さん」
 
開け放した窓の外から、虫の声が聞こえていた。
 
しばらく見つめ合ったあと、彼はフローリングに左手をつきながら、ゆっくりと身を乗り出した。

ためらうように、探るように、唇が触れ合う。かすかにアルコールの匂いがした。

「大樹のヤツ、本当ふざけてるな」

「え?」
 
唇が離れると、ぎゅっと抱きしめられた。耳元で掠れた声がする。

「俺だって、まだ見てないってのに」
 
熱い体温に身動きができなくなった。胸の鼓動が聞こえてしまいそうで身体を引こうとすると、ますます強く抱きしめられる。

「光希。そろそろ俺のこと……」

言いかけて、彼はふいに身体を離した。

「悪い、なんでもない」

「え、なに?」
 
急にぬくもりが消えて、さみしさの余韻が残る。

「焦っても、しょうがないよな」
 
グラスを空にすると、彼は立ち上がった。

「風呂入るわ」
 

バスルームから土砂降りに似た水音が聞こえてくると、私はテーブルのグラスと空き缶を片付けてラグに座り込んだ。
 
アーモンドを一粒、手に取って口に入れる。そのまま指先で唇に触れた。瀬戸くんの感触と温度が、まだそこに残っているみたいだった。




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