溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
兄貴見てるとイライラすんだよね――
そう言っていた切れ長の目は、笑っていたくせに、なんだか苦しそうだった。
思い浮かぶのは針金だ。
不器用なくらいまっすぐな瀬戸くんと、何度も曲げられたせいでまっすぐに戻らなくなってしまった大樹くん。
「ちょっとぉ、聞いてますか先輩!」
目の前で白い手がひらひら揺れて、はっとした。
「どうしたんです? ぼーっとして」
芽衣ちゃんが私の顔を覗きこんで、「冷めちゃいますよ」とテーブルのスープカップを指さす。
「ごめん、ちょっと考えごとしてた」
表面に膜をはりはじめたコーンスープに、木のスプーンをしずめる。正面に座った芽衣ちゃんが、ほんのり緑に色づいたヨモギパンにかぶりついた。
昼時のカフェは若い女性客で混みあっている。だいたいが周辺のオフィスで働いているOLたちで、半数が首から社員IDをぶらさげている。同じようにIDを提げている芽衣ちゃんに私は視線を戻した。
「芽衣ちゃんからお昼を誘われるとは思わなかったな」
「えへへー、先輩に報告したいことがあって」
最近美容院に行ったのか、ショートボブがいつも以上に艶めいて照明を跳ね返している。彼女はおしぼりで手をぬぐうと、両手の指をぴんと立てたまま組んだ。