溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~


ひそかに胸を熱くしながら、私も残ったパンにかぶりついた。
 
帰省するたびに玄関先で見かける弟たちの靴が、サイズアップしてたり、大人っぽくなっていたりするのを目の当たりにしたときみたいだった。

彼女の成長が嬉しくて、ほんの少し寂しい。

 
昼食を済ませ、カフェから徒歩五分のオフィスに芽衣ちゃんと並んで戻る。

街路樹が等間隔に並ぶ歩道に、明るい日差しが注いでいた。太陽光からはようやく刺すような鋭さがなくなっている。

「そういえば西尾先輩、きのう駅前のカフェにいませんでした?」
 
財布だけを手に持って、芽衣ちゃんが目をぱちぱちと瞬く。

「テラス席で先輩に似た人を見かけて」

「え、あー……」
 
オレンジの照明に照らされたお嬢様の顔が、ぽっと思い浮かんだ。

「えーと……」
 
しまった、と思った。

瑠璃さんは会社の前で瀬戸くんと一緒にいるところをみんなから目撃されている。そんな彼女と私が接触していたら、めぐりめぐって彼との関係を怪しまれるかもしれない。
 
答えに詰まっていると、「光希!」と背後から呼びかけられ、私は振り向いた。
 
駆け寄ってくる人物に、心臓が止まるかと思った。

「よかった。仕事で近くまで来たから、もしかしたら会えるかと思って」
 
光沢のある品のいいスーツをさらりと着こなし、重そうな鞄を持った手首から高級腕時計をのぞかせ、彼は立ち止まる。

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